kiryuho contents

∞気流法お知らせ

ことばとからだ 〈舌〉からとらえる

二〇〇九年三月二十五日
朝日カルチャー新宿

公開講座「ことばとからだ イチローと芭蕉をつなぐ」によせて


坪井香譲


私が言葉の問題をはきり気にし出したのは少年時代、三重苦のヘレン・ケラーが、師のサリヴァンに出会ってはじめて「言葉」に目覚める有名なエピソードによってでした。『奇跡の人』という映画にもなり、アン・バンクロフトはアカデミー主演女優賞をもらっていると思います。
ヘレンはある時、ポンプで井戸から迸り出る「水」を手にかけられながら、サリヴァンに掌に「字(点字か盲人用の記号?)」を書かれて、突如、これは水だ、と気付く。それは「水」という言葉に気付くのと、「水」をはじめそれをたくわえている大地や風や樹や空・・・世界に目覚めてゆくのとほとんど同時のように描かれていると思われました。
いろいろの微差はあれ、そしてその微差の程度や様体は大事であっても、ともかく言葉と世界とは呼応し、つながっています。その表裏のようなところを大和言葉では、言(コト)と事(コト)というのでしょう。
私は言葉の専門的研究者ではありませんので、「からだ」−身体技法と言葉のことに迫ってみたいと思っています。その鍵は、今回は〈舌〉にしたいのです。
〈舌〉の再発見をしたのは数年前です。大変重要なことだと自分では思ってきました。世に出ていないある古武術の極意の動きに〈舌〉の動きがあり、天才バスケット選手、マイケル・ジョーダンがプレーの時に舌を大きくだらりとしているのを知り、様々実験してゆく中に、大変沢山の、そして実はそこに統一性と合理性のある現象を〈舌〉を通して発見しました。これは今までのセミナーやカルチャーセンターで参加者が自ら試し、殆どの人が驚くような変化も経験していることです。
人は、この世に生まれ母乳を吸うところから始めて様々な物=世界を受容しては排泄します。空気の出入する呼吸に次ぐコミュニケーションの原点です。また舌は食べ物をテスト(テイスト - 味わう)するところでもあります。
瞑想や身体技法では「呼吸」についてはよくとり上げられますが〈舌〉についてはそうでもありません。実は〈舌〉は呼吸にも「肚」にも体の統一にもリラックスにも大変深く関わっています。同時にこれは言葉にも関わります。
舌先三寸、舌鋒鋭い、二枚舌、弁舌、舌代、舌が回らない・・・等々、言葉(話し言葉)は舌と関わっています。
つまり食を取り入れる〈舌〉は、空気と共に音声を出す働きにも関わります。
この〈舌〉の働きをとらえることを踏まえ、言葉とからだ、言葉と動きの関係を色々と探ってみたいと思います。
チラシにはいくつかのアイデアを書きました。ぜひご覧ください。一つ一つ、とても大きくて深い問題につながっています。全部に触れられるかどうか分かりません。他に次のようなことも考えています。

  • オリンピックのヘビー級レスリングで三回連続優勝したロシアのアレクサンドル カレリンは、後輩選手にともかく本を多く読むことを勧める。それはできるだけ多くの言葉によって多様なイマジネーションの可能性を拓くことが、様々な相手に対する時に力になる、というのである。いずれにせよ、世界の豊かさは言語の豊かさと重なる。(豊かさは必ずしもにぎやかさではないが。)
  • 言葉によって促され進展し充実してゆく場合と、言葉によって停滞し、情けなく痩せ細ってゆき亡ぶ場合。これは言葉そのものの違いによるだけでなく、同じ言葉によってもそうなる場合もある。どのようにしてだろうか?
  • 「いともあやしき言霊(コトダマ)のさだまり」(本居宣長

そして

  • 言い尽くせぬこと、言語を絶する、沈黙・・・。

当日以上のようなことできるだけ「身(み)」で味わてみたいものです。

朝日カルチャー公開講座「ことばとからだ イチローと芭蕉をつなぐ」
四月十一日(土)午後六時十五分〜八時十五分
(気流法の会 TEL042-378-6648)